「待ったなし」 省エネ基準への適合

2020年に予定されていた、住宅及び小規模建築物(住宅以外)に対する省エネ基準の適合義務化が見送られることになった。昨年12月3日に開かれた国土交通省の社会資本整備審議会の報告案に盛り込まれ、1月18日の会合で取りまとめられた。

義務化については、道内住宅業界にも「2020年問題」として、工務店などに危機感が広がっていた。見送りとなったことで胸をなでおろす関係者がいる一方、義務化に備えて省エネ性能の向上に努めてきた工務店にとっては「何をいまさら」という気持ちだろう。

報告案は、義務化を見送る理由について、「住宅及び小規模建築物については、省エネ基準への適合率が57%〜69%と低い基準にとどまっているため、適合義務制度の対象とした場合、市場の混乱を引き起こすことが懸念される」とし、省エネ基準への適合のための追加コストを光熱費の低減によって回収すると仮定した場合の期間についても、小規模住宅(延べ面積300㎡未満)の場合、35年も要するとの試算結果を掲載している。

省エネ基準への適合率について、小規模住宅は60%としているが、その根拠は「届出制度によるデータや国土交通省が実施したアンケート結果」というだけで、実態に即しているかどうか疑問だ。道内の住宅の適合率については、住宅金融支援機構の住宅仕様実態調査結果などから推計して、80%を超えているとみられる。

つまり、道内の新築住宅に省エネ基準への適合が義務化されても、本州ほど大きな影響はないといえる。確かに省エネ基準の内容を熟知していない設計事務所や工務店もあるだろうが、省エネ性能に対する一般ユーザーの認識が高まるなかで、性能を満たした住宅を求める施主は確実に増えており、早急な対応が求められる。

国交省は、建築士に対し、設計時に省エネ基準に適合しているかを施主に説明するよう義務付ける新たな制度を創設する意向だ。まさに、マイホームを取得する一般市民の側から、省エネ基準適合を求める声を挙げてもらおうという算段である。住宅を供給する側はもはや、「省エネ基準とは何ですか」とは言っていられなくなる。

業界内には省エネ基準適合義務化を求める声もある。日本ホームインスペクターズ協会など6団体は1月7日、「住宅取得者の意見を中心に議論し、消費者保護の観点から予定通り義務化すべき」などの共同声明を出した。

また、省エネ基準より高い性能を求めるトップランナー基準について、従来の年間150棟以上の建売住宅の供給業者に加え、新たに注文住宅や賃貸アパートを大量に請け負う事業者も対象に加える。施主が自ら居住しないアパートの省エネ基準適合率は戸建住宅に比べ低いと思われるが、大手ハウスメーカーはほぼ基準に適合している。この点からも、工務店は省エネ基準に適合した住宅を建てる必要性に迫られる。義務化は見送られたが、省エネ基準への適合は待ったなしである。