〈横顔 HUMAN2022〉小松建設㈱ 代表取締役 小松幸雄さん

博士論文は、人との出会いをまとめたもの

小松社長にとって2021年は記念すべき年だった。4代目社長を務める小松建設(伊達市)が創業100年、01年に設立したホタテ漆喰の製造販売会社、あいもり(同)も20年の節目を迎えた。9月には北海道科学大学大学院の博士課程を修了し、工学博士の学位を取得した。博士論文のテーマは「ホタテ貝殻利活用による建材開発と施工方法に関する研究」。

建設会社の社長とホタテ貝殻との出会いは22年前に遡る。当時、道内の戸建住宅は高気密・高断熱化が進む一方で、シックハウス症候群が社会問題になっていた。自然素材の珪藻土が注目を浴びていたが、高額なため使うのは一部の工務店に限られていた。「地元の自然素材を使って低コストで作れるものはないか」と探していたところ、知人からホタテの貝殻を砂状に粉砕している伊達市内の会社を紹介された。

ホタテ貝殻は焼成すると防カビ性や抗菌効果が高まるため、学校の砂場などに使われていたが、「ただ撒くだけではもったいない。日本古来の塗り壁材である漆喰の骨材として使えば用途が広がるのではないか」と考えたことが研究の始まりだった。海岸に山積みになっているホタテ貝殻が建材に変わる――。まさにSDGsと同じように、循環型社会につながる発想だった。

本州から専門の漆喰職人を招き、骨材の配合比率などを試行錯誤しながら内装用の塗り壁材を商品化し、あいもり㈱を設立。その後、道立総合研究機構北方建築総合研究所と共同で湿式外張り断熱外装システム「ビオシェル」を開発。さらにEPS断熱材に排水溝を形成する手法の開発など、ホタテ貝殻をきっかけとした研究分野は拡大した。

18年4月、「今までの研究と開発の経過をまとめたい」と59歳で母校の道科学大(旧道工業大)大学院に入学。福島明教授(当時、現名誉教授)の指導を受けながら専門的な理論の深奥を極めた。

「研究や開発は、多くの人たちの支援がなければ続かなかった」と振り返り、「博士論文は、人との出会いをまとめたものになった」と述懐する。

小松社長にとっては今年も記念すべき年になる。伊達高校時代の仲間と立ち上げたフォークグループ「手風琴」が、2月25日にデビューから40年を迎えた。本人は「ギターを持っても指が動かないよ」と笑うが、代表曲の「惜春譜」をもう一度聴きたい同世代は多い。
伊達市出身、63歳。