おぴにおん【住宅産業の視軸】

集客活動を行うべきか、やめるべきか

新型コロナウイルス感染症の影響は、大手ゼネコンの工事中止という事態にまで拡大し、住宅業界も他人事ではなくなってきた。
住宅の建築現場は、大手ゼネコンが手掛けるような大規模な建物に比べて職人数は少ないため「3密」になりにくい。しかし、ひとたび現場を離れれば、一人ひとりの感染リスクは平等だ。感染者が潜伏期間中に作業に従事し、同僚を感染させてしまう危険性は十分にある。
住宅建築現場では、多くの工務店が作業開始前の手指の消毒や濃厚接触範囲での作業の禁止などを職人に指示している。札幌市内のある工務店は「これ以上の防止策は思いつかない。今や誰が感染しても不思議ではない」と半ばあきらめ顔。
住宅業界はテレワークの普及と営業活動の自粛によって経済活動がほぼ停止状態に陥っている。大手住設機器メーカーのショールームも、緊急事態宣言が7都府県に限定されていたころはオープンしていたが、4月16日に対象地域が全国に拡大すると、各メーカーともに閉館に踏み切り、新規の予約を基本的に受けつけないところも。
雪解け後に増えてきたのが、リフォーム工事の延期や中止である。「お客さんが『知らない人を家の中に入れたくない』と言い始めた」(札幌市内のリフォーム工事業者)、「ショールームが閉館になり打ち合わせができない」(札幌近郊の工務店)などが主な理由だ。
そんななか、モデルハウスの見学会を継続して行い、成約につなげているビルダーがいる。
札幌市内のA社は、スタッフ全員と来場者のマスク着用及び消毒、キッズコーナーのおもちゃの撤去などの条件のもと、完全予約制によるモデルハウスの公開を続けている。「感染症が拡大する以前に比べると確かに予約数は減ったが、4月以降も毎週7、8件の予約が入る。予約客の成約率も通常より高い」という。その最大の要因は継続的な情報発信にある。
同社は以前から自社のホームページに施工事例や土地情報、スタッフブログなどを掲載していた。2月28日に道が緊急事態宣言を発すると、一時的にアクセス数は減少したものの、ホームページの内容を更新し、発信する情報量を増やしたところ、3月中旬から再び増え始めた。詳しく解析すると、最近は一人あたりの閲覧時間も長くなっているという。「折り込みチラシは不特定多数の人が見るので『緊急事態に集客活動などけしからん』と怒られる場合もあるだろうが、ネット広告ならターゲットを絞って送ることもできる」と手の内を明かす。
複数の出展社がモデルハウスを公開している地方都市の分譲地では、大型連休中のイベントは大半が自粛を予定しているが、出展社のなかには予約客に限定して独自に公開するところもあるようだ。
感染防止対策を徹底して集客活動を行うか、感染者の発生を懸念して中止するか――。その判断の正否は早々に明らかになるだろう。