親の財産管理に新手法 注目される「家族信託」

65歳以上の高齢者人口の増加に伴い、道内でも認知症患者数が増えている。道の推計によると、2025年の認知症高齢者数は約34万1000人で、高齢者の約5人に1人が認知症になる見込み。

親が認知症や寝たきりになった場合、子供にとっては財産を自由に処分できなくなることが懸念される。本人の意思確認ができないと定期預金を解約できなかったり、不動産の売却に本人確認が必要だったりするケースは多い。

親の財産を承継する方法は従来、遺言や成年後見制度などが一般的だったが、最近、新たな資産管理手法として「家族信託」が注目されている。親(委託者)が認知症や寝たきりになる前に、所有する不動産等(信託財産)について、受託者である子供や法人と信託契約を結ぶことで、受託者が資産の管理、運用、処分を柔軟に行える仕組みで、アパートオーナーの家族などを中心に契約件数が増えている。受託者が信託財産を管理、処分した場合、その利益は監視・監督権を持つ「受益者」(委託者と同一のケースが大半)に帰属するが、受託者は原則、委託者の了承を得ずに自由に信託財産を処分できる。信託銀行等のプロに財産を預ける場合と違って手数料なども不要だ。

家族信託は2007年9月に施行された改正信託法によって可能になった契約行為の一つ。専門家が少なく解説書の内容も難しいため普及が遅れていたが、最近、大手ハウスメーカーや地場ビルダーがアパートセミナーなどで取り上げるようになり、高齢の親を持つ家族などからの問い合わせが増えているという。

「相続をめぐる親族間のトラブル防止に有効。アパートオーナーなどに積極的に勧めている」(大和ハウス工業)、「親族間の合意に基づく法人を作って受託するケースが多い」(アサヒ住宅)などの声も。

遺言は本人が死亡したときに効力が発生し、財産は一括して相続人に渡される。また、成年後見制度は親の財産を減らさないように管理するのが目的で資産運用などは原則として認められていない。

一方、家族信託は契約行為のため、「いつ、誰に、何の目的で、どのような形で財産を渡すか」を指定できる。例えば、親が所有するアパートをリフォームして家賃を増額したり、新たにアパートを建てたりするなどの投資も可能だ。さらに、親が死亡した後の財産の処分方法を指定するなど遺言機能を持たせることもできる。

家族信託が実際にどの程度増えているのかは不明だが、あすか税理士法人(札幌市)によると、「4~5年前は1件もなかったが昨年は約30件の契約に携わった」という。依頼者はアパートオーナーの子息が大半で、「自分はまだ元気だから大丈夫」と言っていた親も、家族信託を提案すると「そろそろ考えるか」と合意するケースが増えているという。

家族信託は、家族間の信頼関係が大前提だが、住宅業界にとっても、受注拡大に向けた営業手法として仕組みを理解しておきたい。