改正民法 「瑕疵」「損害賠償」などに影響

2020年4月1日に施行される改正民法(債権法)について、(一社)日本木造住宅産業協会が7月31日に旭川市で開催した会員向けセミナーで、匠総合法律事務所(東京都)の秋野卓生弁護士が「住宅業界に与える影響と対策について」と題して講演した。

改正民法では「瑕疵」「損害賠償」など契約に関する身近な規定が変わるだけに、秋野氏の解説からは、弁護士に任せるだけでなく自ら勉強する必要性が伝わってきた。

改正民法では、工事を請け負った工務店の「瑕疵担保責任」に関する現行民法の条文は削除され、瑕疵は「契約不適合」という概念に含まれるようになる。

秋野氏は契約不適合について判例を挙げて解説した。

あるマンションの新築工事で、当初の設計図より断面寸法が短い鉄骨を使ったことで施主が施工会社を訴えた裁判。「短い鉄骨でも建物の安全性は問題ない(瑕疵はない)ことが構造計算で証明された」との施工会社の主張を認めた大阪高裁判決に対し、最高裁は「設計図通りの寸法が契約の重要な内容だった」と認定、施主側勝訴の逆転判決を言い渡した。秋野氏は「改正民法では客観的瑕疵がなくても契約不適合であれば主観的瑕疵が認められる」と指摘した。

今後は、通常の技術水準に適合していない場合も、仕様書やカタログ等を根拠に「当事者の合理的意思に反する」との理由から契約不適合と認定される可能性がある。

改正民法では、工期遅延による施工会社の責任の立証方法も変わる。例えば長雨で工事が遅れたケース。施主は「施工会社はプロ。天候を想定した工程を組むべき」と主張する。改正民法では、「工事の支障となる悪天候が何日以上続いたとき」など免責事項を契約約款等に記載すれば遅延損害金を支払わずに済む。工務店は融資手続きや建築確認の遅延など具体的な免責事項をできるだけ多く約款等に記載しておきたい。

新築住宅のクロスに傷が見つかり、施主から全面張り替えを要求されるなどの「過剰クレーム対応」についても改正民法では適用される条文が変更になる。

現行民法では、瑕疵が重要でなく補修に過大な費用を要する場合、施主は施工会社に補修を請求できない。しかし、改正民法では「履行不能」の規定が新たに盛り込まれ、契約不適合(瑕疵)が軽微で、補修に過大な費用を要する時は履行不能と認められるほか、「施主が請求する方法とは異なる方法で補修が可能」と主張できる。

工事に契約不適合があった場合、現行民法では、施主は補修要求と金銭的賠償請求のいずれかを自由に選択できるが、改正民法では、施主はまず補修を要求し、施工会社が補修不能または補修を拒否した場合のみ金銭的賠償請求ができる。今後、施工会社は「当社が適当と考える方法で補修します」と回答すれば補修拒否に該当しないことになる。

難しい法律の条文も具体的な事例で説明されると理解しやすい。一度、改正民法の解説書を手に取って読んでみてはいかがだろう。