「統計不正問題」で住宅着工データを考える
政府の統計調査に対する国民の不信感が日増しに強まっている。1月28日に始まった通常国会では、この問題をめぐって論戦が繰り広げられている。
ことの発端は、厚生労働省がまとめる「毎月勤労統計」の調査方法に不正が見つかったことだった。東京都内の大規模事業所について、本来は全数調査すべきなのに抽出調査を行っていた。統計をもとに給付水準が決まる労災保険や失業保険の給付額が少ないケースが多発したというから他人事ではない。担当部署が人手不足だったのか、面倒くさかっただけなのか。いずれにせよ、「手段」であるべき統計調査が「目的」になってしまったようである。
政府の基幹統計を所管する総務省は1月24日、他の統計調査結果を洗い直し、点検結果を公表した。その中には、住宅業界でおなじみの「建築着工統計」が含まれていた。国土交通省が毎月発表する新設住宅着工戸数の元となる統計である。点検した結果、「一部の都道府県における抽出作業の手順が、国土交通省が示している手順と細部において相違していた」というのである。
住宅の着工時期は、建築確認申請と同時に提出する「建築工事届」に書かれた工事期間(着工予定日と竣工予定日)を元に算出される。あくまで予定で、実際に着工した日ではない。各都道府県は全ての建築工事届の記載事項を国に報告することになっているため、その意味では「全数調査」である。しかし、実際に着工したかどうか、全物件を確認することはできないため、サンプルを抽出して現地調査を行い、実際の着工日との誤差を縮めようとしている。その抽出作業の手順が違っていたという。国交省に聞いたところ「過去に公表したデータに影響はない」とのこと。
ここで、あらためて住宅着工統計について考えてみたい。「持家や貸家の着工戸数はウチの商売にはほとんど関係ない」という声もあるだろうが、建材や住設機器メーカー、とくにシェアの高い製品をつくるメーカーにとっては、生産計画や販売計画を立てるうえで指標の一つになっているのは確かだ。例えば石膏ボードの出荷時期は着工から2ヵ月後、キッチンは3ヵ月後などである。
その着工統計の信頼性が別の意味で崩れている。職人不足やおざなりともいえる現場管理によって、建築工事届に記載した着工予定日と実際の着工日のズレが拡大しているのである。「ここ数年、住宅着工統計が参考にならなくなっている」(大手建材メーカー)。
基幹統計は国の予算や政策を決める重要な指標である。調査項目の多くは定点観測のため、過去の市場動向などを分析する手段にも使われる。しかし、調査が正確に行われても、住宅着工統計のように実態とのかい離が広がる可能性はある。
大切なのは、自らの目で事実を確認することである。もしかしたら統計数字の間違いが見つかるかもしれない。